株式会社エンハンスは、媒体者さま向けにメディアマネタイズに関する最新事例を交えたパネルディスカッション形式のセミナーを実施しました。
今回は、本セミナーにてお話しいただいた株式会社神戸新聞社さまのラッパーソリューション事例についてご紹介いたします。
▼登壇者プロフィール
・株式会社 神戸新聞社
デジタル推進局 データ戦略部 初瀬川 文範さま
学生時代より地元千葉出身のパンクバンドNICOTINE、SKYレコードの公式ホームページを作成。
2000年、音楽関連情報を扱うメインフレーム系情報処理企業に入社。2006年、株式会社デイリースポーツプレスセンターに転職。新聞印刷技術、紙面伝送およびLAMPを使ったグループウェアを開発。2014年に株式会社神戸新聞社 デジタル事業局 技術開発部へ出向。CMS運用、サーバー保守などに携わり、2016年同デジタル事業局のメディアプロモート室に異動。GAM、Prebid、TAMなどのWEB広告収益部門を担当。2022年より現職。
・Media.net Advertising FZ-LLC
日本パートナーシップ担当責任者 内田 秀雄さま
2005年トランスコスモス株式会社に入社。事業開発投資調査業務に従事し、2013年に株式会社産経デジタルへ出向し新サイト立ち上げや新規事業開発に携わる。2014年にKauli(現fluct)へ転職し、海外アドテクベンダーとの接続・契約交渉等を担当。2015年にRubicon Project(現Magnite)にて日本事業立ち上げ、2016年よりAdRoll(現NextRoll)にて、デマンドサイドの立場からPMP推進を含むサプライサイド業務、プロダクトマネージメントに従事。2020年5月より株式会社エンハンスにてプロダクト開発・事業開発業務に従事。2023年5月より現職。
・株式会社エンハンス
取締役 塩野入 和哉
新卒で大手SIerに入社。以降、一貫してWebサービスのシステムおよびビジネス構築に携わる。前職ではビッグローブ株式会社にてポータルサイト”BIGLOBE”や各種専門媒体のビジネス開発/広告マネタイズ全般を担当。2017年より株式会社エンハンスに執行役員として参画、2018年10月、取締役に就任。
Media.net導入のきっかけは1本のメールから
塩野入(エンハンス):神戸新聞社さまは日本でまだ知られていないような先進的な海外ソリューションを積極的に導入されている印象が強く、色々な媒体者さまからヒアリングを受けることも多いと思います。
Media.netをいつ頃どのように認識し、契約に至ったのでしょうか?
初瀬川さま(神戸新聞社):私たちは先進的にやっているつもりはないので大変恐縮なのですが、「日本は北米に比べ2年遅れている」とよく伺うので、海外のサイトを中心に情報収集を行っています。
興味のあるプロダクトには私たちから問い合わせを送ったこともございました。
Media.netさんに関しては、お名前をよく拝見していたのでコンタクトをとろうと思っておりました。
塩野入:神戸新聞社さまは施策検討に際して海外のサイト等を参考にされていたとのことですが、どういったツールやポイントを確認されていたのでしょうか?
初瀬川さま:私たちも正解かどうかはわからないのですが、新規にSSPを接続する際は、特色が競合しないようなSSPを積極的に選定していました。
塩野入:Media.netに対しては、どのようなイメージを持たれていましたか?
初瀬川さま:グローバルでのシェアであったり、OpenBidding,TAMの接続先リストにお名前を拝見しておりましたので先進的な印象は持っていましたが、当たり前のようにメールでのやり取りが英語のため、翻訳し理解した上で回答を英文で返すということに工数がかかっていました。
ただ「一緒にビジネスをグロースさせる」という熱い気持ちが伝わってきておりましたので、とてもフレンドリーに感じました。
塩野入:ありがとうございます。
Media.netさまが当時英語でメールを送る中で、日本の媒体者さまはどういう反応でしたか?
内田さま(Media.net):弊社のほとんどのチームがインドにあり、営業拠点もインドにあります。
そこからいろんな市場に対してメールや電話でアプローチをしているという状態だったのですが、その時に今の上司に当たるものが初瀬川さんに英語でメールを送っていました。
当時、日本の上位の媒体者さまにひと通りメール送った中で、唯一英語で回答をしてくれたのが神戸新聞社さんでした。
それがきっかけで、上司より日本進出したいといった相談を受けまして、私の方で最終的な契約のサポートをさせていただきました。
海外メディアを参考に2年先の施策を検討
塩野入:情報収集をされている海外のサイトは、どのような媒体を参考にされているのでしょうか?
初瀬川さま:みなさんご存知かもしれないのですが、Ad Exchanger(アドエクスチェンジャー)やThe New York Times、The Washington Postは、いわゆる北米最前線かなと思っているので不定期ながら巡回をするようにしています。
また、私たちは新聞社ですので、基本的には海外でも新聞社のサイトを参考にさせていただいているのですけども、CNNやUSA todayも新しいことをされているようですので見るようにしています。
塩野入:そこから2年先の施策を考えるといったイメージでしょうか。
初瀬川さま:そうですね。何を意図した施策なのかを推察して自社サイトへの展開を考えています。
ソースコードの中にキャリア採用募集と書いてあったりして、そういった直接的なアドテクではないまでも、すぐにでも対応が可能な施策に出会うこともありました。
塩野入:コードを見ることができる方の採用を考えているんですね。
全てのカテゴリでトラフィックを揃えてMedia.netラッパーのA/Bテストを実施
塩野入:では、本日の本題のラッパー切り替えについてお伺いできればと思います。
神戸新聞社さまは今回トライアルでラッパーの切り替えを実施されています。
すでに入れているラッパーを替えるというのはかなりハードルが高いのではないかと思うのですが、どのような背景でラッパーの切り替えに至ったのでしょうか?
初瀬川さま:私たちは元々は自社でPrebidをビルドして使っていたんですけども、レポート機能が難しいこと、専門的な知識がないと管理が困難なこと、一つの構文ミスによって広告が表示されなくなるリスクを鑑みてラッパーソリューションを導入しました。
当時はPrebidはオープンソースの仕組みですので、ラッパーソリューションによる大きな違いはないと考えていました。
その後、内田さんからラッパーのトライアルを打診された際に社内でも検討をしていたのですが、上長から「今利用しているラッパーが最適と考える根拠は何か」との質問に回答が出来なかったので検証を行うこととなりました。
ラッパーソリューションの検証自体初めての実装でしたが、内田さんに相談をしながら検証内容を決めていきました。
検証開始から終了まで、かなり長い期間にはなりましたが、元々課題に思っていたことと内田さんのサポートがあったので踏み切ることができました。
塩野入:今回のラッパー切り替えはかなり長い期間をかけて実施されたんですよね?
初瀬川さま:Media.netのラッパーソリューションを一部のカテゴリに限定して検証していたのですが、純粋な数値の比較をするためには、出来る限り同条件でのA/Bテストをする必要がありました。
内田さんや上長とも相談をして、ラッパーのラッパーみたいなことをやろうという流れになりました。
塩野入:ラッパーを検討するときによく伺うカテゴリ等を絞ったテストでは、公平なテストにならないということですかね?
初瀬川さま:そう考えています。
私たちのサイトでは、カテゴリが違うとユーザーの属性が大きく違う場合があるので、異なるユーザー属性の結果を比較しても求めていた結果にはならないのではないかと考えました。
ですので、サイト全体に拡大し50:50での実装を行うことにしました。
内田さま:私の方から少し補足させていただきますと、まずは少量のトラフィックでテストをしてみましょうということで、実際にデイリースポーツの野球面のカテゴリだけにラッパーを100%Media.netで入れさせていただきました。
他社ラッパーとMedia.netのラッパーのパフォーマンスを比較したときに、野球面であるが故の特性があるのではないかという点を懸念されていらしたので、全体のトラフィックで50:50でちゃんとヘッダーでランダムに切り分けて純粋にテストさせてくださいとお願いし、公平なテスト環境を用意していただきました。
【全体売上137%増、PrebidのCPMも2倍へ】Core Web Vitalsの指標も改善
塩野入:その結果がこちらですね。
内田さま:はい。神戸新聞社さんの全体の売上に関して、GAMの数字をキーバリューで引っ張ってきて、他社ラッパーとMedia.netラッパーとで比較したところ、なんと全体売上が137%上がりました。
実はこの数字はものすごいことで、神戸新聞社さんくらいの規模感の収益をあげてらっしゃる媒体社さまでこれだけ上がると相当な金額になります。
PrebidのCPMも2倍になり、さらにAdXのCPMも128%上がりました。
Prebidの売上だけでなくAdXにもオークションプレッシャーをかけることによって、かなり収益が上がった形になります。
なぜこんなに上がったのかを分析した結果、おそらくMedia.netの処理速度が速かったことが要因のようでした。
塩野入:ありがとうございます。
意図していなかった副次的な効果としてお話に挙がっている、Core Web Vitalsの指標の改善についてもお伺いできますでしょうか?
初瀬川さま:Core Web Vitalsの重要性は理解しているつもりですが、私たちとしては社内CMSの限界もあり、これ以上の対応は難しいと考えておりました。
しかし、ラッパーを切り替えて以降、徐々に良好なURLが増加し、サーチコンソールだけでなくPageSpeed Insightsの数値で見ても改善されていました。
実際のここでいうところの、上の左と真ん中のLCPとFIDっていうのが、大体私たちはこのオレンジの左側スレスレかちょっと右くらいにいたんですけど、それが改善されています。
塩野入:この辺りはPageSpeed Insightsを開いて改善したい指標があったとしても、具体的に改善できづらいものが並んでいることが多い印象があるのですが、実際に改善はできるものなんですね。
初瀬川さま:私たちの場合は、社内のエンジニア部署で社内CMS、WEBサーバーを運用しておりますので、Core Web Vitalsの指標については共同で取り組んでいます。
塩野入:PageSpeed Insightsで合格ってなかなか見たことないですよね。
初瀬川さま:クライアントサイドのPrebidを利用していてSSPの接続数が多いサイトでは、なかなか少ないと思います。
Media.netの他事例についてもご紹介
塩野入:これまで神戸新聞社さまの事例をお伺いしてきました。
他の導入事例についても内田さんからお話いただければと思います。
内田さま:今回のテーマであるCore Web Vitalsのスコアを検証させていただいた比較的大きな教育系の媒体社さまの事例をご紹介します。
左側が国内大手ラッパーを使用していた時のPageSpeed Insightsのスコアです。切り替えたタイミングでMedia.netのラッパー(右側)と比較してみました。
First Contentful PaintとLargest Contentful Paintの秒数がかなり縮まっています。また、Blocking Timeもかなり縮まっています。
ラッパーのコードを変えるだけでこれだけ処理スピードが変わって、さらにそのCore Web Vitalsが上がることで、サイトへのトラフィックが上がり収益も上がります。
単純にラッパーを変えるにはものすごく工数がかかるので、なかなか検討の土台にも上がらないことが多いとは思うのですが、収益に差が出てくる部分でもあります。
国内大手ラッパーのオークションプレッシャーのかけ方というのは、そこまで処理スピードが速くないところにも課題があり、それが収益化にかなり差が出てきた結果なのかなと思います。
塩野入:ありがとうございます。
処理速度に裏付けられているように、Media.netへのラッパー切り替えはPageSpeed Insightsの改善に効果がありそうですね。
Media.netラッパーのメリット・デメリット、他社ラッパーとの違いとは
塩野入:最後に、事前にいただいた質問で特に多かった「Media.netラッパーのメリット・デメリット」についてお話しいただければと思います。
メリットについてはこれまでのお話で出てきているかと思いますので、デメリットについてお伺いできますでしょうか。
初瀬川さま:内田さんの前で言いづらいのですが…(笑)
Prebidを使って新しい施策を試していくなかで、例えば国産SSPを繋ぎたいといった時に、Media.netはグローバルな企業であるが故に、Media.net側のエンジニアに確認をしてもらう必要がありました。
私たちが想像のつかない部分まで慎重に確認をしてくれているので大変ありがたいのですが、もうちょっと速くてもいいかなとは思いました。
内田さま:当時、本当に神戸新聞社さんには我慢していただきながら、国産のSSPを追加できるようにインドのエンジニアが開発をさせていただきました。
そのため、管理画面上ですぐに追加ができる他社と比べると若干お時間がかかってしまうところはあります。
しかしながら、その際に神戸新聞社さんが実装しているビッダーを全て網羅させていただいたので、今ではデフォルトで全ての日本のSSPが使えるようになっております。
塩野入:今は大丈夫ということですね。そのほかに、他社のラッパーとの違いはありますでしょうか?
内田さま:管理画面で色々なタイムアウトの設定やビッダーのオンオフ、レポーティングなど、管理画面上で様々なことができます。
また、我々はインドにオペレーションチームを持っており、そのオペレーションチームが全ての初期設定や追加の依頼についてサポートを行っています。
日本向けにそのサポート人員を数十名規模で確保することで、外資系のベンダーは弱いのではと思われがちなサポート力を強化しています。
さらに、日本の媒体者さまとは日本語でコミュニケーションを取り、インドのサポートチームとのやり取りをスムーズにすることを目的に、エンハンスと戦略的に提携しています。
エンハンスのメンバーが日々コミュニケーションをとることで、どんな改善をするのかや媒体者さまからの意見をインドのサポートチームにスムーズに伝えることができています。
塩野入:ありがとうございました。
今後も、エンハンスはMedia.netの国内唯一のパートナーとして媒体者さまのラッパーソリューション検討・導入を支援してまいります。
▼サービスサイト
https://www.enhance.co.jp/services/wrapper
Rio Tamura
株式会社エンハンス 社長室・広報PR担当